借金は生きている証

私のお客さんに、身寄りのない子供を育てている施設を運営している人がいる。納入した商品の代金を回収しに行くと、そこの施設長が「悪いが、ちょっと待ってくれないか」。
支払いが遅れることは珍しくないため待つことにしたのだが、代金の支払いが遅れるのはお金が盗まれたから。
その施設ではちょくちょくお金が失くなる、誰が盗んだかは見当がついている、恐らく1年前に退寮したA君の仕業だと私は思った。
私、「お金は何処に置いといたのですか?」
施設長、「いつもの、ここだよ」
私、「良い加減、お金を置く場所を変えたらどうですか?」
施設長、「それでは困るだろ」
施設長も誰がお金を盗んだかは気付いている、口に出すことは決してしないが。
私、「お金は帰って来たことはあるんですか?退寮する時に、まとまったお金を貸してますよね」
施設長、「・・・」
聞くまでもないことだ、貸したお金が帰って来たことは1度もない。
犬でもメシを食わせてくれた人間には恩義を感じるらしいが、この施設を育った者に施設長に恩義を感じている者はいるだろうか。
退寮した者で、感謝の連絡が来るのは最初の1年だけ、連絡が来るのはマシなほう、中には世話になっておきながら退寮させられたと施設長を恨む者もいる。
私、「帰って来ないと分かっていて、なぜ、お金を貸すのですか?」
施設長、「お金を借りられる者がいると思えれば救いになるからだよ」
私、「盗まれると分かっていても、同じ場所にお金を置き続けるのですか?」
施設長、「お金が盗まれても私は怒るようなことはしない、生きていることが分かって嬉しいんだ」
私に施設長のマネは出来ない同情もしない、納入した商品の代金はキッチリ回収した、それをしなければ私の家族が路頭に迷うからだ。