踏んだり蹴ったり

バイトの帰り、後ろから来た車にオカマを掘られ、バイクは大破した。
私、「痛っ!」
私にオカマを掘った人、「す、スイマセン」
バイクは大破したものの、私自身に痛みはない。
事故を間近で目撃していたドライバーさん、「診てもらったほうが良いぞ」

病院で診てもらったほうが良いのは分かるのだが、40代でアルバイトをしている私に経済的余裕はない。
私にオカマを掘った人も、私同樣に経済的余裕は無さそうに見えたのだが
通行人、「お兄さん、出血してるよ」
痛みは無かったが、腕から出血していたため、病院で診てもらうことにした。

大破でバイクは乗れないため、病院までオカマを掘った人に送ってもらった。
時間が経つにつれ、体のアチコチが痛くなり、検査を受けると「即入院」と言われた。
即入院と言われても、バイトの帰りで着替えはない。
着ていた服や履いていたズボンは、治療を受ける際にハサミで切られてしまい、病室では病院が用意してくれた浴衣を着た。
浴衣を着たのは高校の修学旅行以来、なんか嬉しかった。
しかし、トイレに行きたくても、足が痛い。水を飲みたくても、手が痛い。両手でコップを持ったのだが、口の中がキレており、水が飲めなかった。

怪我のことより気掛かりなのは、お金のこと。
お金を工面する術は、オカマを掘った人に支払ってもらうしかないのだが、その人は音信不通。
怪我が徐々に治ると退院が近づき、支払いが出来ない私は困った。
病院の待合室にいると、何処が悪いのか分からない患者が声を掛けて来た。
患者、「お金に困っているだろ?」
私、「分かりますか?」
患者、「この病院には、お金に困った奴が多く来るからな。幾らいるんだ?」
私、「30万円ほど」
患者、「オカマを掘った相手は分かっているんだろ?」
私、「はい」
患者、「だったら貸してやるよ」
その日の夜、その患者に呼ばれ病院の夜間出入り口に行くと、普通では無さそうな人に30万円を渡された。
私、「必ず返しますから」
患者、「入院中だから、逃げはしねえよな」
私、「逃げませんよ」
私は退院まで、私にオカマを掘った人を待ったのだが、結局現れず、借りた30万円は退院から2年掛かって完済した。